2022年2月2日に、令和5年度 (2023年度) 採用分の日本学術振興会特別研究員の募集要項とその申請様式が発表されました (日本学術振興会の特別研究員のWebページ)。
申請書の書式に関しては、昨年と変更がないようです。申請書の書き方等に関しては、弊ブログのこちらの記事をご覧ください。
以前、下記の悩みを持つ学生さんとお話ししたことがあります。
僕は、業績も大してないし、採択される見込みがありません。
申請書を書かずに実験に専念しようと思います…。
ちょっと待ってください!
申請書を書く過程に多くのメリットあります。
本記事を読んで、今すぐ申請書を書き始めましょう!
申請書が通らないと自分で勝手に決めつけて、申請書を書かないことは多くのメリットをドブに捨てるようなものです。そこで、本記事では、『学振の申請書を書くことで得られるメリット5選』をご紹介します。
自分の研究の立ち位置を知る機会になる
申請書には、大きく分けて【研究計画】【研究遂行力の自己分析】【目指す研究者像】の3つのパートに分かれています。
2【研究計画】
日本学術振興会 特別研究員(PD・DC2・DC1)申請書等様式 令和5年度(2023年度)採用分
(1) 研究の位置付け
特別研究員として取り組む研究の位置づけについて、当該分野の状況や課題等の背景、並びに本研究計画の着想に至った経緯も含めて記入してください。
DC用, 申請書内容ファイル(申請書3~9ページ)
【研究計画】の欄に、特別研究員として取り組む自分の研究の位置づけを書くためには、まず初めに当該分野のことを深く・広く知る必要があります。
博士課程に進学して研究を続ける学生さんであれば、最新の論文を読むことは当たり前のことかもしれません。しかし、日々の実験の忙しさで、基礎的な背景知識が整理不足なことはありませんか?
そうであるならば、申請書を書く際に、世界の研究に対して理解を深めておきましょう。
世界の研究と自分の研究の立ち位置について、図解すると以下のようになります (全人類が持つ専門性の深さと知識の幅について, Figure 1)。
ここで、腫瘍生物学を例にして「専門性と知識の幅」を Figure 2 に示しました。学振の設問にある “当該分野の状況や課題等の背景” とは、Figure 2 中の青色三角領域を示しています。
つまり、「研究の位置付けを記入してください」とは、青色三角領域中の自分の研究テーマ (黄色領域) について説明してください、という意味だと考えられます。
しかし、背景知識が不足している現状では、自分の研究のすぐ近くの知識しか習得していない可能性があります (Figure 2 左側の黄色部分, 現状の自分の知識)。
そこで、申請書を書く際に、自分の知識の幅を広げる (Figure 2 右側の黄色部分, 未来の自分の知識) ことが、より深みを持った申請書を書くことにつながります。
このように、「自分の専門性を深く追求」⇄「基礎知識体系を見直す」というサイクルを回すことで、自分の研究を相手に説得しやすくなります。
『研究領域を俯瞰した視点』と『その中で重要な研究を見極め、突き詰める姿勢』は、申請書書きだけでなく、企業研究でも応用できます。また、研究領域を市場環境と考えた場合、研究で培ったこの力は、ビジネス上でも役立つスキルです。
学振以外の奨学金等の申請書にも転用できる
学振の採択率は約3割なので、約7割の方が残念ながら不採択となってしまいます。しかし、申請書を書き上げた経験があれば、不採択の場合も、書き上げた申請書をブラッシュアップして、学振以外の奨学金等に申請すればいいでしょう。
奨学金Xの申請を考えたとき、申請書を一度も書いたことがないAさん vs 学振の申請書を書き上げたBさんの場合、明らかにBさんの方が有利です。
学振の申請書も、民間企業の研究職採用の際に出す研究概要も、各種奨学金も、ある程度『型』は決まっています。その『型』から外れた申請書は、審査する側からしたら、欲しい情報がない、理解しにくい申請書になっている可能性があります。
申請書を書くことを通して、研究概要の文章の『型』を自分に染み込ませましょう。
学振に採択されなかった場合の対処方法については、弊ブログのこちらの記事をご覧ください。
文章作成力を向上させることができる
どれだけ素晴らしい研究内容を書いていたとしても、相手に理解してもらえなければ、学振の申請書が採択される可能性は低いでしょう。
では、「理解しやすい文章を書くコツとは?」「相手に自分の研究をアピールする方法は?」と申請書を初めて書く学生さんは頭を抱えているのではないでしょうか?
やはり学振特任研究員に採択された先輩の申請書や書き方のポイントを知り、まねることが、手っ取り早く文章力を上達させるコツになります。
しかし、なかなか他人の申請書を見る機会ってありませんよね…。
その際、学振採択者から学ぶセミナーが役立ちます。
学振の申請書の募集要項が発表される時期には、学振採択者から申請書を書くコツを学ぶセミナーが開催されます。
採択者のコツが全てとは言いませんが、やはり学ぶことは多いと思います。
就職活動をするにしろ、アカデミアで研究を続けるにしろ、文章という手段を用いて、相手を魅了する必要があります。
申請書の作成を行うことで、あらゆる文章作成の能力アップにつながります。
指導教員と研究内容のすり合わせを行うことができる
博士課程中に行う研究は、指導教官の研究テーマの一つである方も多いと思います。そうでなくても、所属研究室の実験機器やノウハウを活用して、研究を行うと思います。その際、学振申請者が考える研究内容と指導教官が考える研究内容が合致していた方が、研究遂行がスムーズでしょう。
修士課程と博士課程の研究室が同じ場合
修士課程から同じラボにいる方であっても、2, 3 年後の長期スパンに立った議論を行う機会は少ないのではないでしょうか?
今一度、指導教員と共に、研究の方向性をすり合わせることで、指導教員も安心してあなたに研究を任せることができます。
博士課程から別の研究室に移った場合
私は博士課程から新しい研究室に移動しました。研究室に入る前から、研究の方向性などを口頭レベルでディスカッションをしていましたが、フワッとしたものでした。
その際、学振の申請書の作成を通して、教授と研究テーマについて目線合わせができました。
このように、自分の書いている文章を通じて、指導教官とディスカッションをすることで、研究内容を明確化でき、共通認識を持って研究を進めることができます。
研究内容をブラッシュアップすることができる
申請書を作成する際は、指導教員以外の研究室のスタッフや先輩にも申請書を見ていただきましょう。そうすると、違った角度の意見が得られ、自分の研究計画や研究内容をさらに向上させることができます。
私の場合、教授から頂いた意見に対して、助教からは異なる意見をいただきました。その際は、助教の意見を参考にして、申請書を作成しました。
研究室を主催する教授は俯瞰した視点で捉えている一方、詳細の実験に対する理解度が現場に比べて低いことがあります。一方、現場で実験を行なっている若手の助教やポスドクのような方からは、より現実的なアドバイスをいただきました。このように、人それぞれ見ている視点や理解の精度が異なり、1人の意見を鵜呑みにすることの危険性を感じました。
このように、周りの人を頼りながら、自分の申請書をブラッシュアップしていくことが重要です。
しかし、頼ることは難しいですよね…。
頼ることが苦手な方は、弊ブログのこちらの記事をご覧ください。記事内で紹介している『人に頼む技術 コロンビア大学の嫌な顔されずに人を動かす科学』はオススメの書籍ですので、是非手に取ってみてはいかがでしょうか?
まとめ
本記事では、学振申請書を書くことで得られるメリット5選について私の意見を示しました。
日本学術振興会の特別研究員として採用されるメリットに負けず劣らず、本気で申請書に向き合う経験には大きな価値があると私は考えます。
みなさんの申請書作成を応援してます!ファイト!
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