日本国内の一般の人へも、新型コロナワクチン接種が進んでいますね。
そこで今回は、新型コロナワクチン開発に貢献した基礎研究者とその基礎研究について学んだことをアウトプットします。
(新型コロナワクチンに関する正確な情報は、下記の厚生労働省のウェブベージをご参照ください)
カタリン・カリコ博士
先日、NHK NEWS WEB に下記の記事が掲載されました。
記事では、新型コロナウイルスに対する mRNA ワクチンの開発に重要な発見をしたカタリン・カリコ博士 (Dr. Katalin Karikó) について書かれていました。
今回は、カリコ博士の元論文に遡り、新型コロナワクチンに対する理解を深めようと思います。
カリコ博士は、BioNTech RNA Pharmaceuticals 社で働いており、論文投稿や特許出願など現在も研究の最前線におられることが推察されます。
新型コロナワクチンに関して
まず初めに厚生労働省のウェブページから、日本で薬事承認されている新型コロナワクチンに関する情報を引用しました。
日本でも、ファイザー社のワクチンが令和3年2月14日に薬事承認され、同月17日から接種が開始されています。また、武田/モデルナ社ならびにアストラゼネカ社のワクチンが令和3年5月21日に薬事承認され、同月24日から武田/モデルナ社のワクチンの接種が開始されています。アストラゼネカ社のワクチンについては、予防接種法における接種の進め方等について、現在、継続審議中です。審議結果が出ましたら、速やかに情報を公表していきます。
開発状況について
ファイザー/バイオンテック社製の新型コロナワクチン
本剤はメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンです。SARS-CoV-2のスパイクタンパク質(ウイルスがヒトの細胞へ侵入するために必要なタンパク質)の設計図となるmRNAを脂質の膜に包んだ製剤になります。本剤を接種し、mRNAがヒトの細胞内に取り込まれると、このmRNAを基に細胞内でウイルスのスパイクタンパク質が産生され、スパイクタンパク質に対する中和抗体産生及び細胞性免疫応答が誘導されることで、SARS-CoV-2による感染症の予防ができると考えられています。
ファイザー社の新型コロナワクチンについて
モデルナ/武田社製の新型コロナワクチン
本剤はメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンです。SARS-CoV-2のスパイクタンパク質(ウイルスがヒトの細胞へ侵入するために必要なタンパク質)の設計図となるmRNAを脂質の膜に包んだ製剤になります。本剤を接種し、mRNAがヒトの細胞内に取り込まれると、このmRNAを基に細胞内でウイルスのスパイクタンパク質が産生され、スパイクタンパク質に対する中和抗体産生及び細胞性免疫応答が誘導されることで、SARS-CoV-2による感染症の予防ができると考えられています。
武田/モデルナ社の新型コロナワクチンについて
ファイザー/バイオンテック社製 および モデルナ/武田社製のワクチンは同じ mRNA 型のワクチンであり、カリコ博士の技術が用いられていると考えられます。
カタリン・カリコ博士の貢献とは?
成果1. Karikó K. et al., Immunity, 2005
mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、tRNAでは一般的な「シュードウリジン」に置き換えると炎症反応が抑えられるとする論文を2005年に発表しました。
“革新的”研究成果がコロナワクチン開発に 女性科学者の思い
この成果は、”Suppression of RNA Recognition by Toll-like Receptors: The Impact of Nucleoside Modification and the Evolutionary Origin of RNA” というタイトルで Immunity 誌に掲載された論文になります。
本成果は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の設計図となる mRNA 中のウリジン(U)をシュードウリジン(Ψ)に変換することで、ワクチン接種時に mRNA に対する免疫応答を抑制することに貢献していると考えられます。
ウリジン(U)
シュードウリジン(Ψ)
Discussion パートの最後の一文を引用すると…
Insights gained from this study could advance our understanding of autoimmune diseases where nucleic acids play a prominent role in the pathogenesis, determine a role for nucleoside modifications in viral RNA, and give future directions into the design of therapeutic RNAs.
Karikó K. et al., Immunity, 2005
2005年のカリコ博士に向けて「あなたの研究成果が COVID-19 というパンデミックを食い止めるワクチンに活きてますよ!素晴らしい研究成果をありがとうございます!」と伝えたいです。
基礎研究が人々の健康や暮らしに大きく貢献する可能性があるという文章は、決まり文句のように感じてしまうかもしれません。
しかし、この研究成果を含めた多くの研究の集合体が今のワクチンにつながっているのだと思います。
成果2. Karikó K. et al., Mol Ther., 2008
さらに2008年には、特定のシュードウリジンに置き換えることで、目的とするたんぱく質が作られる効率が劇的に上がることも明らかにしました。
“革新的”研究成果がコロナワクチン開発に 女性科学者の思い
この成果は、”Incorporation of Pseudouridine Into mRNA Yields Superior Nonimmunogenic Vector With Increased Translational Capacity and Biological Stability”というタイトルで Molecular Therapy 詩に掲載されています。
この論文の筆者の中に、自然免疫応答に重要な役割を果たすトル様受容体 (Toll-like receptors; TLRs) 研究の第一人者である大阪大学の審良静男 (Akira Sizuo) 先生がいらっしゃるのは嬉しいことですね。
この論文を、落合フォーマットに沿って解説します。
この論文の重要なメッセージは?
シュードウリジンを含む mRNA は、非修飾の mRNA に比べて高い翻訳効率と生体内での安定性、免疫原性が低いという特徴を有することを証明した。
先行研究と比べてどこがすごい?
先行研究 (Karikó K. et al., Immunity, 2005) では、培養細胞を用いて炎症性サイトカイン産生や表面抗原の発現を指標に、mRNA 中のウリジン(U)→シュードウリジン(Ψ) 置換が免疫原性を下げることを証明した。
しかし、導入した mRNA が、
- 実際にタンパク質として発現するのか?
- 機能的なタンパク質なのか?
- 細胞だけでなく動物でも機能するのか?
という点が明らかにされていませんでしたが、本研究で新たに明らかにされました。
技術や手法のキモはどこ?
mRNA 内の U→Ψ 置換。
Luciferase, GFP などのモニタリング用のタンパク質を用いた。
どうやって有効だと検証した?
ウリジン (U) に比べて、シュードウリジン (Ψ) 修飾 mRNA を細胞やマウスにトランスフェクションしたときのLuciferaseの活性やGFPの発現を調べた。
議論はある?
なぜ U→Ψ 置換によって翻訳効率の向上に寄与するのか?
実際に治療が可能なのか?(ワクチンによって感染が抑制されている現状がその効果を物語っていますね)
次読むべき論文は ?
VEGF-A の配列をコードする修飾核酸が、心臓の前駆細胞の運命決定を指揮し、心筋梗塞後の血管再生を誘導することを示した論文。
mRNA が治療に用いることをマウスモデルで示している成果であり、mRNA で疾患が治療できるのかを学ぶために読む。
なぜこの論文 (Karikó K. et al., Mol Ther., 2008) を選んだのか?
接種が進むコロナワクチンに対して理解を深めるため。
自分の研究に活かせそうか?
核酸を注文するときに、色々な修飾核酸を選択できることは知っていた。しかし、ATGCU しか使用したことがなかった。
今後、核酸を合成して細胞にトランスフェクションする機会があるかもしれない。そのときは、核酸の修飾具合で免疫応答が変わることを前提に起き、実験に合わせて核酸の修飾状況についても考えを巡らせるようにする。
まとめ
本記事では、日本で接種が進むコロナワクチン開発に貢献した基礎研究の成果についてまとめました。
15年前の基礎研究が COVID-19 のパンデミックを収束させる鍵になりうるなんて、予想だにしていなかったと思います。
今回示した例のように、基礎研究の成果はすぐには芽が出ないかもしれません。
しかし、どこに芽が出るかわからないからこそ、満遍なくタネを蒔いておかねばならないと思います。
選択と集中が叫ばれている世の中ですが、一般の人も含め多くの人が基礎研究に対して理解を示していただけると嬉しいです。
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