秋の近付きを感じる今日この頃ですが、学振の結果発表の時期がやってきました。
学振申請者のバイブル学振申請書の書き方とコツ 改訂第2版 DC/PD獲得を目指す若者へ (KS科学一般書)の著者である東工大の大上先生は、以下のようなツイートをされていました。
学振の申請者は、結果の公開をドキドキしながら過ごしていると思います。
私も数年前は「学振の結果はいつ発表なの⁉︎」と、悶々とした日々を過ごしたことを覚えています。
学振の採択率は2-3割程度なので、本記事の読者さんの中には残念ながら不採用の通知が来る可能性があります。
そこで、本記事では『①申請書を振り返る』『②学振以外の給付型の奨学金に申し込む』『③来年の学振申請書に向けた準備』の3本柱で、今回の不採用を糧に努力するみなさんを応援したいと思います。
採用の場合は、研究遂行経費に関する過去記事を参考にして、節税の準備を行ってください。
申請書を振り返る
勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし
プロ野球監督の故野村克也さんの名言。原典は、江戸時代の剣術の達人松浦静山の剣術書『常静子剣談』にある一文。
この言葉は「負けた原因を解決することで、今後の勝つ可能性が高めることができるよ!」という応援メッセージだと私は思っています。
不採択になったのであれば、不採択の原因を分析し、もっと良い申請にするためには、どうしたらいいのかをまず考えましょう。
適切な審査区分に提出したのか?
私が申請書を振り返るときは、適切な書類審査区分に提出したのか?を振り返ることを勧めています。
例えば、あなたが『腫瘍免疫の観点から膵臓がんを治療する』という研究を行っていると仮定します。その際の書類審査区分の一例として、以下の区分が考えられます。
『腫瘍免疫の観点から膵臓がんを治療する』に対する書類審査区分の一例
- 審査区分91: 薬学およびその関連分野→47040 薬理学関連
- 審査区分93: 病理病態学、感染・免疫学およびその関連分野→49030 実験病理学関連、49070 免疫学関連
- 審査区分94: 腫瘍学、ブレインサイエンスおよびその関連分野→50010 腫瘍生物学、50020 腫瘍診断および治療学関連
- 審査区分95: 内科学一般、器官システム内科学、生体情報内科学およびその関連分野→53010 消化器内科学関連
審査区分は令和4年度(2022年度)採用分研究者養成事業「審査区分表」(総表)を参考
(書類区分は変更することがあるので、申請年に合わせた区分をご確認ください)
自分が戦うフィールドは複数あることはわかったけど、どうやったら自分に適切な審査区分を選ぶことができるの?
過去の採択者を調べることで、ある程度推測することができます。
2021年度 DC1, DC2採用者一覧を参考にして、各小区分ごと、研究課題名に含まれるキーワードを抽出してみました。
各小区分に含まれるキーワード
- 薬理学関連: 神経、うつ、肝繊維化、脳内出血、心筋梗塞、脳、がん細胞、概日リズム
- 実験病理学関連: リンパ球、抗腫瘍、抗炎症、マクロファージ
- 免疫学関連: 気道炎症、B細胞、T細胞、免疫寛容、自己免疫疾患、抗体、ウイルス感染
- 腫瘍生物学: 骨髄異形成症候群、がんオルガノイド、抗がん剤、分指標的治療薬、転移
- 消化器内科学: 消化管内視鏡検体、膵癌、膵癌ワクチン
過去の採択者の審査区分を見ていると、出す分野によって、戦略が変わってきそうな気がしました。
『腫瘍免疫の観点から膵臓がんを治療する』という研究課題が親和性の高い領域は、やはり「腫瘍生物学」と「実験病理学」だと考えられます。
「免疫学」は、免疫学の王道領域の研究課題が採択されている印象があったので、腫瘍免疫関連では出さない方が無難ではないか、と思いました。
「消化器内科学」に関しては、採択者が MD (Medical doctor, 医師) の方が多い印象を受けたので、non-MD の方であれば、違う領域の方がいいと思います。一方、消化器内科に所属する MD の方であれば、適した分野の可能性もあります。
あとは、受け入れ研究機関の部局に注目しましょう。「薬理学」であれば薬学系の研究科、「腫瘍生物学」であれば医学系の研究科が多い傾向にあります (部局に関しては、あくまで傾向程度と思っていた方がいいかもしれません)。
さまざまな観点から、自分の研究課題や研究内容が適切な小区分を選択できているかを見返してみましょう。
学振以外の給付型の奨学金に申し込む
自分の申請書を振り返った次は、学振以外の奨学金への応募を考えます。
生活費や研究費を頂ける制度は学振だけではありません。世の中には、さまざまな奨学金制度があります。
自分の大学や研究領域限定の奨学金制度もあるので、後から「申請しておけばよかったー(涙)」とならないように申込を行いましょう。
2023年4月から支給していただける給付型の奨学金
バイオ系学生向けの奨学金の一部をピックアップしました (まだ、募集要項が公開されていない奨学金もあるので、情報が古い場合があります。詳細は参考URL等をご覧ください)。
次世代研究者挑戦的研究プログラム (2021年9月時点の情報)
- 概要: 博士後期課程の学生が研究に専念できる環境を整備し、卓越した博士人材の育成や輩出を目指す事業。
- 参考URL: https://www.jst.go.jp/pr/info/info1519/index.html
- 申込期限: 2021年9月末が多い (所属大学に依存する)
- 頂けるお金: 生活相相当額222-240万円+研究費50万円 (最大) (所属大学による)
- 備考: 今年始まった制度なので、自分の所属大学が採択されているのか否かを調べ、申請書作成に取り掛かりましょう。
- 概要: 日本の大学院で学ぶ日本人学生に対する奨学金。学位取得を目指して日本の大学院へ在籍中または入学試験に合格していれば応募可 (専攻分野は不問)。
- 参考URL: https://www.hisf.or.jp/scholarship/graduate-school/
- 申込期間: 2022年9月1日~2022年10月31日
- 頂けるお金: 月額 20 万円を 1 年間~2 年間 or 月額 18 万円を 3 年間 or 月額 15 万円を 4 年間~5 年間+国際学会に出席するための費用が、奨学金支給規程に基づき支給
- 備考: 300名近くの応募者の中から、毎年3~7人の新規採用者がいるようです (参考: 採用実績)。
- 概要: 優秀な学生に給付型の奨学金を付与し、それぞれの専門分野に最大限注力できる環境を整える。
- 参考URL: https://www.yamada-foundation.or.jp/
- 申込期間: 2021/10/28-2021/12/24 (注: 2022年度の奨学生の募集要項)
- 頂けるお金: (月額)12万円×1年間 (4月1日~翌年3月31日) (給付型)
- 備考: こちらの奨学金は、大学生・大学院生を対象にして、募集人数が合計6名です。小論文の提出が必要であり、2022年度は「自分自身の将来の目標について」というテーマの2400字以内小論文の提出が求められていました。
「きぼう」プロジェクト免疫学博士課程学生支援 (2021年10月時点の情報)
- 概要: 日本免疫学会が、免疫学領域の優秀な博士課程大学院生に対して、研究に専念し、今後の研究者としてのキャリアを確立できるように奨学金を支給する。
- 参考URL: https://www.jsi-men-eki.org/general/kibou/kibou1/
- 申込期間: 2021/11/8~2021/12/24 (注: 2022年度の奨学生の募集実績)
- 頂けるお金: 年額 3,000,000円×2-3年間 (月額25万円)
- 備考: 免疫学を専門とする学生に対する支援になります。採用決定の場合には、支援金が支給されるまでに日本免疫学会員となることが求められます。頂ける生活費が月額25万円と、学振の20万円より多いです。
BIKEN谷口奨学金制度 (最新版, 2022年9月時点の情報)
- 概要: 微生物病学を専攻する優秀な大学院博士課程の学生を対象とした、返済義務のない給付型奨学金制度。
- 参考URL: https://www.biken.or.jp/about_business/academic-grants/scholarship
- 申込期限: 2022年10月7日まで
- 頂けるお金: 月額8万円 (2023年4月から在籍する機関の最短修業期間まで)
- 備考: 2023年4月時点で、日本国内の大学院博士課程に在学し、微生物病等に関する研究を行う大学院博士課程在学者であり、2年以上の在学予定がある日本人学生の方。
理化学研究所 大学院生リサーチ・アソシエイト(最新版, 2022年10月時点の情報)
- 概要: 大学院博士 (後期) 課程に在籍する若手研究人材を非常勤として理研に採用し、知識・経験豊富な研究者と一体となって研究を展開することにより、理研の創造的・基礎的研究を推進するとともに、研究所と国内大学等との間の協力関係の強化を図ることが目的。
- 参考URL: https://www.riken.jp/careers/programs/jra/jra2023/
- 申込期限: 2021年10月25日(月)午後1時 (注: 2022年度の応募申請手続要領)
- 頂けるお金: 週勤務5日の場合、月額200,000(税込)(←昨年度の164,000円(税込)から支給金額増加!!)+通勤手当(支給限度額:月55,000円)
- 備考: 奨学金というより、理研における非常勤で勤務するという制度です。大学院生リサーチ・アソシエイトを受け入れることができる研究室に所属している場合は利用してみてはいかがでしょうか。
来年の学振申請書に向けた準備
不採択であったのであれば、その現状を受け入れて来年度の申請に向けた準備を行いましょう。
今年度の申請書は「過去の研究成果よりも未来の研究計画に目を向けよう!」という日本学術振興会の意図だと私は考えています (具体的な変更点は2022年度採用の申請書の大改訂に関する過去記事もご参考にしてください)。
しかし、過去の業績が関係ない訳ではないと思います。
業績は、これまでの研究を行ってきた軌跡なので、これからの研究計画の実現可能性を補強するデータとなりうると思います。
そこで、来年の学振の採択率を上げるために、業績の積み上げを考えてみてはいかがでしょうか?
学会発表
来年の2-4月ぐらいの学会を探し、教授に打診してみてはいかがでしょうか?
学会発表が一つの目標となって、研究のモチベーションアップにつながるので、ぜひ学会発表の申し込みを考えてみましょう。
若手の学会/研究会のように、若手に受賞のチャンスが与えられている学会にトライするのもありです。
論文投稿
複数テーマを持っていて、一区切りがつきそうであれば、論文投稿を考えてみてはいかがでしょうか?
論文の Introduction, Discussion パートを作成するために過去の論文を膨大に読み返す作業は、自分の研究の背景知識を再インストールする上で、大きなプラスになります。
バイオ系では BBRC のように、査読結果が2週間以内に返ってくる論文もあります。
教授の意向など、色々なハードルがあるので、なかなか達成できないかもしれません。しかし、論文投稿の意思を伝えるだけでも大きな価値があると思います。
論文投稿を考えている学生さんには論文投稿の流れについて解説した記事が参考になると思うので、ぜひ一度ご覧ください。
なお、オープンアクセスの学術誌を検討する際は、ハゲタカジャーナルにはご注意ください。
ハゲタカジャーナル (Predatory publishing, 捕食出版)
- “査読誌であることをうたいながら、著者から論文投稿料を得ることのみを目的として、適切な査読を行わない、低品質のオープンアクセス形式のジャーナルです。”(参照: 京都大学図書館機構)
- ハゲタカジャーナルに引っかからないために
- DOAJ, QOAM に載っているオープンアクセス誌を選ぶ!
- Beall’s List に載っているオープンアクセス誌は選ぶな!
まとめ
本記事では『①申請書を振り返る』『②学振以外の給付型の奨学金に申し込む』『③来年の学振申請書に向けた準備』の3本柱の解説を行いました。
日々の実験でデータを出すとともに、今回紹介した3本柱の対策を行ってください。
皆さんの研究の進展および来年の学振に採用されることを願っております!
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