論文を読むことは、研究をする上で重要な研究活動の一つです。
しかし…
何を意識して論文を読めばいいかわからない…
読んだ論文の要約を作成したいけど、やり方がわからない…
と悩んでいる学生さんも多いのでは無いでしょうか?
そこで、今回は
- 論文を読むとき、どんな観点で読めばいいか?
- 論文の知識をどのように自分の知恵にするのか?
を落合フォーマットによる論文要約法を用いて説明します。
本記事は、
- (前半) 落合フォーマットの説明
- (後半) 落合フォーマットに沿った論文要約の例示
という流れで、説明を行っています。
落合フォーマットって何?
論文を理解するための6つの質問 (基本フォーマット)
落合フォーマットは、私が勝手に名付けさせていただいた論文の読み方と管理方法です(笑)
筑波大学の落合陽一先生が Slide share に挙げている 48 ページ目のスライドのフォーマットを参考にしています。
スライドにあるように、
- どんなもの?
- 先行研究と比べてどこがすごい?
- 技術や手法のキモはどこ?
- どうやって有効だと検証した?
- 議論はある?
- 次読むべき論文は?
を、A4一枚程度にまとめることを意識して、論文を読みます。
それが、論文の要点を押さえた自分だけの要約集となります。
論文の理解を行うのであれば、上記の6観点で十分だと思います。
しかし、論文をより自分のものにするための以下の質問2つも考えてみてください。
自己理解・自分の研究に活かす2つの質問 (+αの質問)
なぜその論文を選んだのか?
- どんなことを期待してその論文を読んだのか?
- 自分がどんなことに興味を持ちやすいか?
を言語化することで、自分がどんなことを研究していきたいのか?を考えることができます。
博士の企業就活でも、「どんな論文に興味を持っているのか?」を聞かれたことがあるので、自分の興味や関心がどこにあるのかを明確に説明できるようにしておきましょう。
自分の研究に活かせそうか?
「研究アイデアがあり過ぎて困ってしまう…」という人は良いのですが、大半の人が「自分の研究を進める何か良いアイデアはないか?」と新しいアイデアに飢えていると思います。
アイデアの作り方 (ジェームズ・ウェッブ・ヤング著, CCメディアハウス) によると、アイデア作成の基礎となる一般的原理は2つあると述べられている。
- アイデアは既存の要素の新しい組み合わせ
- 事物の関連性をみつけ出す
とあります。
そして、アイデアを生み出すために資料を集める必要があります。先著では、その資料を2種類に分類しています。
- 特殊資料: 自分が取り扱う分野の専門的な内容
- 一般的資料: 広く世の中にある出来事全て
研究の場合であれば、
- 特殊資料: 自分の専門分野の背景や実験手法、解決したい科学的な問い
- 一般的資料: 他分野の研究や身の回りの科学的な現象
になります。
自分の研究テーマ (特殊資料) と論文・講演・雑談で得られた他分野の知識 (一般的資料) を掛け合わせることで、新しいアイデアが現れます。
見方を変えれば、論文などから他分野の知識を自分の中にストックしておかなければ、新しいアイデアは生まれないということになります。
論文を読むときに「自分の研究に活かせそうか?」という問いを持っておくことで、特殊資料と一般的資料の掛け合わせを常に行うことができます。
アイデアは、パッとどこからともなく現れるものではなく、地道な知識の掛け合わせでしか生まれてきません。
落合フォーマット (基本+α の8つの質問) を参考にして、論文を読み、自身の研究を発展させましょう!
落合フォーマットを実践してみた
ここでは私が実際に落合フォーマットに沿って論文の要約を行ってみました。
(所属によらずに読める、かつクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの観点から、Nature 系列の OPEN ACCESS 論文 Nature Communications から論文を選択しました)
今回要約する論文は、
Yevtodiyenko, Aleksey et al. “Portable bioluminescent platform for in vivo monitoring of biological processes in non-transgenic animals.” Nature communications vol. 12,1 2680. 11 May. 2021, doi:10.1038/s41467-021-22892-9
です (上記論文から、文章の抜粋および日本語への翻訳や改変を行なっています)。
どんなもの?
持ち運び可能な生物発光 (Portable bioluminescent imaging, PBL) 技術
(背景) 生物発光イメージング (Bioluminescent imaging, BLI) は、前臨床におけるイメージング手法として広く用いられている。しかし、Luciferase を発現させた遺伝子改変動物・細胞を用いるため、イメージングできる実験モデルが限られている。
PBL システムを構成する3つの要素
- 注目する酵素 (本論文では CYP450, DPP-4) の酵素活性により外れるかご (cage) を付けた D-Luciferin (cage 付きの D-Luciferin は Luciferase の基質として機能しない)
- Luciferase を含む詰め物 (plug)。または、Luciferase 発現細胞を含むデバイス
- 持ち運び可能な Lufciferase の発光検出器
PBLシステムの内容 (例: CYP450 の酵素活性を調べる)
- cage 付きの D-Luciferin を投与する。
- 肝臓の CYP450 の酵素活性で cage が外れ、遊離の D-Luciferin が血中を流れる。
- 遊離 D-Luciferin が皮下に埋め込んだデバイス内の Luciferase と反応して発光する。
- その発光をマイクロスコープで検出して、肝臓のCYP450の活性をモニタリングする。
先行研究と比べてどこがすごい?
先行技術 BLI の欠点
- Luciferase を発現する遺伝子改変マウス・細胞が必要
- 検出時に動物を入れておくための光を通さない黒箱とCCDカメラが必要 (つまり、持ち運び不可・高価・マウスやラットのような小型動物しかイメージングできない)
PBL は上記の BLI の欠点を解決
- 遺伝子改変マウス不要 (しかし、初めの実験系の妥当性を検証するためには必要)
- 持ち運び可能で、暗闇が不要。犬のような大型動物のイメージングが可能
技術や手法のキモはどこ?
持ち運び可能な検出器×ケージ化 Luciferase の組み合わせ
PBL システムを大型動物 (犬) に適用したこと
どうやって有効だと検証した?
(Fig. 2, 3, 4) 野生型のマウスに、CYP450, DPP-4 の活性を変化させる薬剤を投与し、PBL システムで発光を検出する。
その結果を、遺伝子改変マウスを用いた BLI の発光と比較して、PBL システムの妥当性を検討する。
実験手法: D-Luciferin 用量依存性 (Fig. 2)、DPP-4 選択的阻害剤 sitagliptin (SIT) を用いてた DPP-4 の活性測定 (Fig. 3), CYP450 を活性化させる dexamethasone (DEX) 投与実験による CYP450 活性測定 (Fig. 4)
最後に、PBL システムを犬に適用し、D-Luciferin 用量依存的な発光を検出し、PBL システムの大動物への応用が可能であることを示した(Fig. 5)。
議論はある?
遊離した D-Luciferin が血流を介してデバイスに到達する必要があるので、薬剤による血管の収縮・弛緩などの影響が発光量に影響を与える可能性はないのか?
次読むべき論文は?
引用文献18, 20, 73: 化学発光基質の投与経路によって、測定したい酵素活性の場所をコントロールできることを示した論文。
BLI は発光部位を可視化できるが、今回の PBL システムでは局在情報がなくなっている。投与経路によっては位置情報が得られるのであれば、PBL システムの可能性が広がると思ったので、上記引用文献を読みたいと思った。
なぜその論文を選んだのか?
検出したい酵素活性 (例: 肝臓におけるCYP450の活性) と検出する場所 (皮下のプラグ内のルシフェラーゼによる発光) が異なる点が面白い!さらに知りたい!と思ったから。
自分の研究に活かせそうか?
酵素活性が起こる場所とその活性を発光として検出場所が異なるという考え方。
まとめ
本記事では、落合フォーマットを用いた論文の読み方・要約方法について説明しました。
論文から得られた “知識” を自分の中で整理した “知恵” にしてこそ、論文を読んだと言えると思います。
論文要約を Evernote, Google ドキュメント などにどんどん貯めていくことで、後から一覧で見た時に自分がどんな論文に興味を持って、どんな観点で論文を読んでいるか?を可視化できます。
今回紹介した論文要約法は、論文の理解促進だけでなく、自己分析や研究アイデアの源泉にもなります。
今回の記事を参考にして、自分だけの論文要約集を作成してみてください!
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